Sd.kfz.142 StuG III Ausf.A
三号突撃砲 A型

2007/12/05  工作開始
キットのパーツ構成は車体・戦闘室・足回りと細部のパーツとなる。
鋳造時のバリはさほど酷くはなく、破損箇所も多くはない。

難点は足回りパーツと装備品類である。
足回りは履帯のセンターガイドがつながっており、どの様に調整するかが問題である。装備品類はほぼ全てがフェンダー上に成形されており、手直しをする とフェンダーの滑り止めパターンが潰れるというジレンマに陥る状況である。
まずは下地処理を行なう。
真鍮ブラシで全体を磨き剥離剤を落した後、全体にメタルプライマーを塗布する。
戦闘室の破損箇所を修正。
破損部分にエポキシパテを適度に乗せる。
エポキシパテの硬化後、デザインナイフで余剰部を切り落としヤスリで接合部を 整える。
主砲のキットパーツは太めでこのままでは使用できない。
以前調達してあったアベールのアルミ挽き砲身と置き換えることとした。
全体にヤスリがけを行い鋳造時の凹凸を修正し、基部・砲身を取り付けた状態。
車体は写真のような一体成形で作られている。
フェンダーは滑り止めパターンと社外装備品が鋳造されており、これらをどの様に処理するかが課題となる。
結論はフェンダー諸共作り直す方向に・・・

キットパーツのフェンダーは薄いホワイトメタルであるため、デザインナイフで比較的容易に切除できた。
フェンダーは0.1mmの真鍮板から作成する。

キットパーツと1/76の図面を元に寸法をはかり、真鍮板からパーツを切り出す。
切り出した真鍮板に罫書き針で折り目を付ける。
折り目に沿って加工したのみでこの程度の形にまでなる。
滑り止めパターンはアベールのプレートを使用する。

滑り止めパターンの接着にはハンダを使用する。

フェンダーパーツを固定し接着面にフラックスを塗布する。
フラックスの上にハンダを流し、全体にやや厚めのハンダメッキを施す。
滑り止めパターンプレートの裏面にもハンダメッキを施した後、木製のハサミで 固定する。
ハンダゴテでハンダメッキを溶かし接合する。
滑り止めパターンを張りつけた状態。
車体とフェンダーの仮止めをし全体のバランスを確認する。
寸法に大きな狂いはないようである。
本体とフェンダーの接合は真鍮線を車体に差し込む形で行なう。
図面を参考に真鍮線をハンダで固定する。
キット付属の起動輪パーツ。

・・・・何故かA型用のパーツとB型用のパーツが一つずつ入っていた(汗
当然一つでは足りないので、A型用パーツの複製を行なう。
片面のみの複製で事が足りる為、型思いを使った複製を作ることとした。
注入剤はエポキシパテを使用。

一つで巧くいくとは思えないため、三つほど作ってみる。
2〜3日ほど放置し、型から外した状態。
デザインナイフで余剰部を切除する。
比較的まっとうな形で複製が出来たが、起動輪の歯をどうするかが悩みどころである。
フェンダー上の雑具箱を真鍮板より作成する。
A型はフェンダー後部に独特の雑具箱を左右一対で装備している。

これはキットにはパーツが付属しない為、図面の寸法を参考に真鍮板を切り出した。
雑具箱の蓋と本体は分けて作成する。
曲げ加工を行った状態。
ハンダで接合をしつつ、隙間埋めを行なう。
車体前方のフェンダー上には工具箱が設置されている。

こちらはキットパーツが付属するが、こちらも真鍮板からスクラッチすることとした。
車体両側面にある吸気口はキットパーツが付属するが、こちらも真鍮板から作り 直すこととした。
図面より計った寸法に合わせて真鍮板を切り出す。
アール部は工具の柄を使用して加工する。
真鍮製のパーツ類。
フェンダー上の工具箱固定部分。
中空の構造で下にはジャッキ台が収納され、上に工具箱が乗る。
装備品類はレジン製の既製品と真鍮材からの手製で再現する。

グレーのレジンはシリウス製のパーツ、イエローのレジンはアルモ製のパーツとなる。
フェンダー上に工具類を置いてみた。。
寸法的な狂いはないため、このまま作業を続行する。

2007/12/12  細部工作
エンジンルーム側面にある吸気孔(?)の制作。
フェンダー上に張り出し、上部には異物混入防止用メッシュが張られた部分となるが、キット付属のパーツは再現性が今一つなことから、真鍮材を中心に作り直 すこととした。
孔内の仕切り板も真鍮板から作成する。
コの字に曲げた真鍮板を両側面の内側にハンダ付けする。
横板に切れ目を入れ、コの字の真鍮板を取り付けて仕切りの十字部分を再現す る。
車体への接合は真鍮線の差し込みにて行なうことから、両側面に支柱をハンダ付けした。
外枠に当る部分の再現には細めの真鍮線を張りつけ、ヤスリで平面に整える方式 で作成。
メッシュはファインモールドの菱形目のエッチングメッシュを使用する。
こちらはデザインナイフで簡単に切り出せる為、扱いやすい部材である。
メッシュをハンダ付けし余剰部分を切除した後、ヤスリで形状を整える。
車体に取り付けた状態。
フェンダーと干渉する部分があったことから、トライ・アンド・エラーを繰り返して調整した。
工具の一部も真鍮材から作成。
バールは真鍮線の先端をプライヤーで潰し、角度を付けた後にヤスリで先端を調整した。
エンジン始動用クランクは真鍮線と真鍮パイプの組み合わせで作成。
フェンダー上のOVM取付用金具も真鍮板から作成。
細く切り出した真鍮板を加工した後、ハンダで固定している。
工具を取り付けた状態。
この段階では工具は着脱可能である。
フェンダー前方には前照灯が取り付けられることから、基部として真鍮パイプを 埋め込んだ。
位置の当たりを付けた上で開口し、真鍮パイプを裏からハンダ付けした。
フェンダー後部は泥よけ板を跳ね上げた時に尾灯と干渉しないように開口されて いる。
こちらも当たりを付けた上で、ピンバイスで開口した。
仮組み状態。
まだまだ先は長い・・・

2007/12/19  足回り工作
足回りに手をつける。
正直なところ、戦車模型の足回りは極力触りたくない部分であったりする。構造が複雑な上に部品点数も多く、高い作業精度を求められると同時に、同じ作業の 繰り返しによっては飽きが来ることがその主な理由である。
今回はキットパーツのままでは余りにも目立ち過ぎる問題があるため、足回りパーツに手を加えることとした。
課題は、一体成形で立体感の乏しいセンターガイドと平面な履帯の縁の加工が中心となる。
一通り作業を終えた状態。
履帯のセンターガイドは隙間をくり貫いて立体感をだし、履帯の縁はキットのモールドに沿って縁を切り落とした。
センターガイドのくり貫きによって全体的に強度が落ちてしまい、今後の取扱いには十分注意が必要となりそうだ。
キット付属の懸架装置。
メタルキットの場合、この手の細かいパーツを普通に接着しても簡単に外れてしまう可能性が高い為、取り付け方法を考える必要がある。
車体側の加工。
足回りと懸架装置は真鍮線の軸を入れて固定する方式を使うため、車体側に軸を入れる穴を開ける。
部品のサイズに合わせた太さの真鍮線を軸として使う。
懸架装置は上下二ヶ所に軸を入れ、足回りは起動輪と誘導輪の軸に合わせて真鍮線の軸を通す構造となる。
車体の裏面。
中は写真の様な中空状態であるため、軸の真鍮線は貫通して写真のような状態となる。
調整を繰り返し、足回りの組みつけ位置が確定した状態。
塗装の利便性を考え、この段階で足回りのパーツは接着しない。

2008/01/15  工作完了
フェンダー、足回りの工作が完了したので車体と戦闘室の工作に手をつける。
車体全体はきれいに鋳造されていることから、小物類の作成とモールドが足りな箇所を補う作業を中心に行なうこととなる。

手始めに車体後部に設置される発煙筒ラックのスクラッチを行なう。
これは大戦初期〜中期の車両によく見られる装備で、三号突撃砲の中ではA型だけは非装甲の旧式ラックが取り付けられていた。
キット付属のパーツはB型以降の装甲付きラックであったため、このパーツは作り直すことになる。
切り出した部品をハンダで組み立てる。
発煙筒ラックは基部と上部のカバーに別れていることから、これらを個別に作成し、最後に接着する方式とした。
発煙筒ラックの基部とカバーのパーツ。
真鍮板と真鍮パイプから作成した。
車体背面下部の排気管の作成。
キット付属のパーツはそこそこの出来であるが、排気管の管部分は開口するよりも真鍮パイプに置き換える方が容易である。
真鍮パイプに目立てヤスリで切れ目を入れ、適度に折り曲げた後にハンダで固定する。
キットパーツと組み合わせた状態。

取り付け位置は元のパーツの位置と図面を参考にしている。
車体後部の手直し。
ボルトを強調する為に真鍮線に置き換え、エンジン始動用クランク差し込み口は真鍮板に置き換えた。
車体背面下部の牽引用フックはコの字に加工した真鍮板を加工して作成。
キットの素の状態の車体背面。
細かい部品は全て潰れてしまっている。
真鍮材・プラ材を使用して手を入れた状態。
エンジンルーム上部の工作。
主な工作箇所は5箇所の吊り上げ用ピルツの真鍮線への置き換えとエンジン点検用ハッチのハンドルの作り直し、そして牽引ワイヤー固定用フックの制作であ る。
牽引用ワイヤーは真鍮の縒りワイヤーを使用して再現する。
取り付け金具を所定の順にくぐらせて写真の様な状態にする。
先端部は真鍮パイプで〆部を再現し、先端部は真鍮縒りワイヤーを丸めて瞬間接 着剤で固定した。

縒りワイヤーは多少の張力があるため、角部はプライヤーでクセを付けることで処置位置に納めることができた。
戦闘室の工作。
キットの欠損箇所の修復は完了している為、戦車長ハッチの工作が主となる。

キットではハッチは別パーツで構成されているが、これを全て新造パーツに置き換える。
どうせやるならと今回も可動式にすることを前提に工作を行った。
寸法を合わせた真鍮板を2枚に分け、ハッチに加工する。

ヒンジは真鍮板を細くきり、真鍮線に押しつけながらクの字型に折り曲げ加工した部品となる。
後部側のハッチには裏面よりストッパーとなるパーツをハンダ付けした。
ヒンジは前部側のハッチと同様の方法で作成している。
車体側には前部ハッチの受けとなる穴をあけ、後部は専用の留め具パーツを制作 した。
ハッチを取り付けた状態。
開閉に支障はなく、隙間も少ない出来となった。
前部ハッチの裏側にはロック機構が備えられている。
この部位はプラ材を中心に作成した。
照準孔の加工。
A型・B型の特徴である照準孔の溝はある程度掘り直し、奥まった部位にはそれらしく加工したプラ材を貼った。
アンテナは真鍮材を中心に作成し、基部は可動式とした。
車体前面の牽引フックも真鍮材で新造。

車体との接合を行な受け部とコの字型に加工した真鍮板を元に作成したフック部に分けて作成し、最後にハンダで接着している。
フックを車体に取り付けた状態。
フェンダー上に工具を取り付ける。

ジャッキはキット付属のメタル製品を使用。
履帯連結用機具は真鍮板から自作。
ワイヤーカッターはシリウスのレジン製アフターパーツを使用。
S字シャックルは押しつぶした真鍮線を加工して作成。
右フェンダー上の工具。

消火器と斧はアルモのレジン製アフターパーツを使用。
スコップはシリウスのレジン製アフターパーツを使用。
バールは真鍮線を加工して作成。
砲身清掃具は固定具も含めて真鍮材で作成。
車体前部の左右にある車幅標示灯はそれらしく加工したプラ材で作成。
車幅標示灯の電源配線は燐銅線で作成。

2008/01/19  基本塗装
基本色の塗装を行なう。
三号突撃砲 A型はドイツ軍がドゥルケングラウのみを採用していた時期の車両である為、自ずと塗装はドゥルケングラウの単色迷彩となる。

塗装は利便性を考慮して写真の様にパーツを分割可能な状態にて行った。
下地剤としてマルチプライマーを吹いた上で、素材色を隠蔽と塗装の発色を良く する為にサーフェイサーを吹く。
基本色の塗装。
今回はグンゼのジャーマングレーを使用した。

これまで、ガイアノーツやタミヤなどのドゥルケングラウを使用して来たが、色合いなどの点から個人的な感覚としてはグンゼの塗料が最も適していると考えて いる。
ハッチを開けた際に見える社内は別の色で塗装を行なう。
ガイアノーツのインテリカラーを使用する為の下地塗装を行なった。

ガイアノーツの塗料はラッカー系であるため、下地としたサーフェイサーが溶け出さないようにする必要がある。今回はラッカーで侵食されないシタデルの水性 塗料による下地塗装を行った。
インテリアカラーを筆塗りする。
最近はエアブラシばかり使用していたため、塗り斑や気泡に悩まされた。。
車外装備品の塗装を行なう。
これらの塗装に使用する塗料は下地のラッカーを侵食せず、後に行なうエナメルやぺトロールに侵食されない塗料を使用する必要がある。

塗料にはシタデルの水性塗料を使用し、金属部はフラットブラック、木材部分は下地色としてフラットホワイトを塗布した。
フラットホワイトの上にコピックマーカーで木材の色をのせる。

使用したコピックマーカーはE25 Caribe CoccoaとYR23 Tellow Orcherで、E25を全体に塗った上で、YR23で木目の表現や色むらを付ける。
写真では分かりにくいが、牽引ワイヤーにもフラットブラックを塗った。
細部の塗り分けが完了した状態。
マーキングを行なう。

三号突撃砲 A型は4つの独立突撃砲中隊と第1SS師団LAHなどに総数50両足らずが配備されたとされている。このうちフランス戦で使用された車両は独立突撃砲中隊 (640、659、660、665 / 定数24両 / GD師団などに編入)と第1SS師団LAHに配備された6両であるとされている。

BISON DECALS製1:72/1:76 突撃砲用デカールの中にLAH所属車両用の物が含まれていた為、これを利用することとした。
BISON DECALS製の水貼りデカールは接着力が弱く崩れやすい為、貼付面にはマークセッターを塗ぅている。
ウェザリングに入る前にデカールと塗装面の保護のため全体にトップコートを吹 く。

通常は白熱灯下で接写しているため本来の色よりも黒っぽい色合いの写真が多いのだが、蛍光燈下で撮影したこの写真の色合いが実際の塗装色にかなり近い。

2008/01/26  仕上げ
仕上げのウェザリングを行なう。
ドゥルケングラウの単色迷彩を施した車両は全体的に色調が押さえられ細部が見えない状態になるため、全体的な明度を上げつつ細部の形状が浮き出るような塗 装を目指している。

このため、作業は希薄した塗料の流し込みとエッジのタッチアップを中心に行なうこととなる。
まずは土埃を被ったような印象を与える為に希薄した塗料を数回塗り重ねる。

今回はタミヤ製エナメル塗料のフラットアースとダークイエローの混合色をぺトロールで溶くという変則的な組み合わせを試してみた。
エナメル塗料に対してぺトロール溶剤の親和性が高いことは知っていた為、エナメル塗料の粒子の細かさとぺトロールの適度な伸びを合わせられないかと考えた 結果である。
始めはフラットアースのみの希薄塗料を流し、徐々にダークイエローを入れて色 調を上げた塗料を上乗せしてゆく。写真は3回塗り重ねた状態。
ぺトロールは比較的揮発性が高いが完全に乾くまで1日は必要である為、満足が行く状態になるまで1日に1回塗料を重ね続けることとなる。
5回塗り重ねた状態。
常に全体に流すわけではなく、残したい場所に合わせた濃度に希薄した塗料を都度作りながら塗装を行なう。

2回程度流すと塗料が残りやすい箇所が見えて来る為、不要な部分は次の回の塗 装時に洗い流し、逆に残り難い部分には多少濃くした塗料をのせるという作業を繰り返す。

写真の様に装甲のつぎ目や滑り止めパターンに塗料が残ることで、全体のデティールがはっきりと見えるようになる。
想定している程度の明るさまで色調が整った段階で、塗料の剥げや錆の表現を入 れる。

エッジを中心に多少派手目に錆を入れ、その上で基本色と同等の塗料で調整を行なう。
最後の調整のため、再度希薄した塗料を流す。
足回りはピグメントを使用して泥汚れの表現を行った。
アクリル溶剤を塗布した上にピグメントをのせ、適度に乾いたら筆で払い落とす作業を数回繰り返して調整してゆく。
メタルキットは塗料が剥がれやすい性質があるため入念に下地剤を吹く必要があ るのだが、足回りの下地剤が足りなかった様でウェザリング途上で何ヶ所か塗料が剥がれてしまった。
これ以外の塗装時の特性はレジンと大差がなく、またレジンと同様にキット自体は溶剤に侵食されないことから、色調の調整で希薄した塗料を使用する際に気を 使う必要が無い点は扱いやすいと言える。

また、メタルキットは素材が脆いことから大幅な改造には向かないが、構造を工夫することで多少の可動部を設けることも可能である。
キットの素材を問わず可動部の作成方法はまだ課題が沢山あるが、今回の作成で新たな方式の実現性を試すことができた。