(この記事は3/21に投稿する予定で書きかけのまま放置していましたので、途中までの内容ですが公開します)

記事にできるだけの模型ネタが無いことから、進行中のウクライナ戦争の読み解き方について考えてみます。

昨今は情報発信の手段が多様化・簡易化されたことにより、以前にも増して民間を巻き込んだ情報戦が展開されると同時に現地の一次情報を直接目にする機会が増えています。情報は常に発信者の意図による方向性が付けられた上で発信されますので、事実関係を把握するには複数のソースを見比べる作業が欠かせません。

国内向けの情報発信では、「ウクライナ支持」「ロシア制裁」「ウクライナの抵抗が上手く行っている」「ロシアの計画通りに進んでいない」「ロシア経済は崩壊寸前」「ロシア国内でも反戦運動」などの情報が多い様に思われますが、目の前の情報だけを追いかけては大局を見失うことになりますので、断片情報の整理と大局の読み解き方については国際政治の視点から考える必要があると思われます。

 

◆情報を整理する道具

戦争は国会意思の発露であり外交の一部であることから、背景となる国会意思をどの様に読み解くかにより各々の国が何を求めているのかを予測することができると思われます。その際に有用な手法としてケネス・ウォルツが提唱した「分析の3つのレベル」という考え方です。

詳細は上記画像の出典元である下記の動画を見てもらうとして、国家意思とはユニットレベルではなく、システムレベルで決まるという点が重要な点になります。このため、これまでの歴史に基づく国際政治の仕組みからも国会意思を読み解くことができると思われます。

 

◆ロシアの国会意思

今回の事態に至ったロシアの国家意思はどの様なものであったのかを知るに当たり、開戦時(2月21日)にプーチン大統領が行った演説が参考になると思われます。もちろんロシア側の視点で一方的に語った内容となりますので、言っていることが事実関係として正しいかではなく、ロシアが世界をどの様に見ているのかを知る材料として見る必要があります。この演説では我々と異なる理解を語っているが故に、ロシアの国会意思が顕著に示されていると思われます。

最近は動画に翻訳済み字幕を自動生成出来るようになりましたが、可読性の面では人手による翻訳には敵いませんので、全文訳を参考にすると良いでしょう。

超大雑把に解釈すれば、

(前提)

  1. ウクライナはロシア発祥の地であるため、不可分な領域

その領域に対して東西冷戦の終結後に起きた、

(原因)

  1. NATOの東方拡大
  2. ウクライナへの西側の政治介入と国内の混乱

これらの事態に対抗するため、

(目的)

  1. 東部二州の独立承認
  2. キエフ政府の打倒

という様なことを語っていました。

 

原因1.については冷戦終結後から現在までのNATOの東方拡大状況を示す図があります。事実関係としては東方拡大がなされてはいますが、ロシアの経済圏・軍事勢力圏に居るよりもEU/NATOの勢力圏に与する判断は各主権国家の自由意志となりますので、ロシアが口を挟むことでは無いと言えます。ロシアの視点から見れば、潜在的な敵対勢力が国境に近づいてくることへの警戒感が高まることは理解できなくはありません。

原因2.については断片的にしか知識がありませんが、2000年以降は大統領選の度に混乱が発生して政変が繰り返されている印象があります。大筋としては親欧米政党(ウクライナ民族主義系?)と親露政党が暗闘を繰り返していた様です。双方共にいろいろと無茶を繰り返していた様ですが、親欧米政党の無茶がロシアの軍事介入を招くケース(2014年クリミア危機)やロシア系住民が多いとされる東部において分離独立はによる武力紛争が発生し、多数の犠牲が出ていた様です。この様な状況の中、新欧米派の現政権が2021年にクリミア奪還に向けた方針を決めたそうです。

 

目的1.及び2.については、この様な情勢の中で政治権力として親露派が弱体化して巻き返しが難しくなってきた状況を打開する手段を正当化するために設定されている様に思われます。

2つの目的が示されていますが、これを両方とも満たすまで続けるのか、片方で妥協できるのか、はたまた両方とも断念するのかという三択がこの状況の結末になると思われます。

 

◆ウクライナの国家意思

ウクライナの国家意思は正直なところよく分かりません。ただし、現在の政権を形成している親欧米政党(ウクライナ民族主義系?)としては、2014年に奪われたクリミアの奪還、東部紛争の終結が目的であると思われます。

3/23に我が国の国会においてウクライナ大統領のオンライン演説が行われますので、その中でウクライナの求めるところが明確になるかもしれません。

 

 

◆理解できないものに解釈を付ける危うさ

我が国内におけるロシアの動きについては、「合理性が無い」「プーチン大統領は気が狂った」という様な論調が多い様に見受けられますが、これは事実であるのか?という点には疑問があります。

上記の開戦前の宣言では明確な目標が示されており、国家意思の発露が必ずしも経済的合理性だけでは動かないということは冷戦期にも、それよりも以前にも数多の事例があります。この状況に対してむしろ危惧すべきは、自分達の価値観から理解できないものを「合理性が無い」という思考停止や「プーチン大統領は気が狂った」といった1stイメージで語ることで、ことの本質を見誤ることではないかと考えています。

事実関係のみを見れば、

・ロシアがウクライナに4方向(キエフに向けた南下・西進、ハリコフに向けた西進、ドネツク・ルガンスクへの進駐と西進、クリミアからの北上・東進)から侵攻

・ウクライナ大統領は首都キエフに留まり徹底交戦の構え

・ウクライナに対して軍需物資の支援は行うが、NATOの正規軍が動く気配はなし

という状況が全てであるように思われます。

2022-03-02の状況 2022-03-18の状況