7月12日に放送された報道特集(JNN / TBSテレビ)では、「独占取材 日本初の国産ステルス機」という特集が放映されました。

先進技術実証機(ATD-X実験機)と呼ばれている開発途上のステルス戦闘機の開発現場にテレビカメラが入り、初公開となる映像を多数みることができました。

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これまでには実物大模型によるステルス性試験、1/5スケールの試験機による飛行試験、そして2014年中の初飛行を目指して組み立てが進められているとの情報は公開されていましたが、実際に組み上がった試験機の映像が公開されるのは初めてではないでしょうか。

組み上がったATD-X実験機は、過去の実験機と同様に視認性の良い塗装が施されていました。このカラーリングはF-2戦闘機の開発実験機XF-2を彷彿とさせます。

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映像では機密にあたる箇所にぼかしが入っていましたが、組立工程の早送り映像が出てきたりと、ここまで公開しても大丈夫なのかと不安になるくらいの映像が出てきます。

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高機動性の要となる推力偏向パドルに関する解説もされます。

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そして、アフターバーナーを備えたエンジン「XF5」の開発へと解説が続きます。

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塗装に関する説明は省略(最重要機密だし・・・)され、コーションマークと文字入れへと進み、ATD-X実験機の完成となります。

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今後のスケジュールとしては、2014年中に初飛行、2018年までに国産か国際共同開発とするかの判断を行い、2035年のF-2退役までに後継機として配備する計画となります。

 

放送局がTBSということもあり内容の偏向が危惧されていましたが、報道映像は現場の声を中心に構成された概ね公平なものでした。しかし、残念ながら編集方針には多分に偏向が認められます。

 

報道映像内において国産ステルス機開発を行う理由として、

 

・2007年の日米合同訓練におけるステルス戦闘機との模擬戦闘において、従来機では短時間でお手上げ状態となった

・ステルス戦闘機の開発は各国がしのぎを削っている(アメリカは開発済み・ロシア・チャイナは開発中)

・ステルス戦闘機は持っているだけで大きな抑止力となる

・F-2戦闘機の後継機として開発が進められている

・日本独自の技術を磨くことにより、国際共同開発となっても駆け引きにおける優位性となる

・過去の共同開発(FS-X)において、エンジンは提供、ソースコード開示が拒否された

 

という内容が語られているにもかかわらず、最後にキャスターが以下の様な発言を行いました。

 

「あのね、僕はVTRを見ていて非常に気になったことがあるんですね。それは、あの、開発者としてのリベンジとか、あるいは開発者としての日本の悲願、非常に情緒的な言葉が使われていることなんです。技術開発を推し進めるのは、ある意味で言うと、現場の、そのパッションとか情熱だってことはもちろん理解できるんですけども、それが、その技術そのものの、こう正当性とか、正当化に使われるというのは非常に危険な要素があって、これは過去の歴史を振り返って申し上げてるんですけどね、何にも増して、その国民的な議論が深められないまま、こういう重大な技術開発ってのが国の予算、国民の税金を使って、まぁ既成事実として積み上げられていることに問題がないのかということをあえて私は申し上げておきたいと思うんですが、この特集をご覧になった視聴者の皆様も、国産ステルスのこの開発話をサクセスストーリーとか成功話っていう位置づけではなくて、そもそもなんで日本独自のステルス機ってのが必要なんだろうか、あるいは必要じゃないんだろうかという、その根本的な根源的な問題について、自分の頭でこう考えるきっかけにしていただきたいと私は切に思います。」

 

・・・・・は?!

 

我国を囲う周辺国では既にステルス戦闘機の開発が進んでいる中では抑止力として必要ということが語られており、さらに同盟国との過去の共同開発において苦渋をなめた経験からも、独自の技術開発は必要であると報道映像で語られているじゃないですか。

このキャスターは自分たちが報道した内容を理解できてないんでしょうか?

 

この発言を聞いた後に報道映像を見直すと、担当の技官、現場に技術者の開発執念を感じる発言が多く、F-2開発にまつわる日米の衝突が繰り返し語られていることから、番組としてはこの発言で締めて、国産ステルス戦闘機開発に疑問符を付けさせるために編集されていたということが分かります。

戦闘機開発の様な国家プロジェクトの方針は、国民が選挙で選んだ政治家が決めることであり、政治の決定に従い現場の技官・技術者は与えられた課題を解決して行くことになります。世界で初めての試みである場合も往々としてある中では、個々の技術者に強い思い入れがなければ務まるものではありません。

立場と役割を理解しないキャスターの発言に対して呆れ返ると同時に、現場の声を切り貼りして見え透いた誘導を行う行為は非常に問題であると思います。

 

最後に不快な思いをしましたが、映像自体は航空機好き、特に自衛隊機に興味がある人にはなかなか良い情報と話題を提供してくれたと思います。