16日に台湾総統選挙が行われました。
我が国のシーレーンを確保する上での要地であると同時に、毎年台湾に遊びに行っている身としても結果が気になる選挙でした。
昨年のサービス貿易協定の批准に関する反対に端を発した「ひまわり学生運動(太陽花学生運動)」により国民党の信頼が失墜し、昨年後半に行われた台北市長選挙で与党 国民党が大敗、事前の調査でも野党 民進党が国民党をダブルスコアでリードしていましたので、民進党が与党となることは事前に確定していました。
結果が見えている選挙では、勝敗よりも勝者側がどの程度勝つかという点が重要になります。
結果、全113議席の内、民進党が68議席、国民党が35議席、その他諸党が10議席という結果になりました。
注目すべきは、前述の「ひまわり学生運動」を基盤とした政党「時代力量」が諸党10議席の内、5議席を占めたという点です。民進党とは政策ごとの是々非々で対応して行くと宣言しており、今後は台湾独立派の野党として台湾政界の要石となるかもしれません。
台湾の歴史は複雑であり、人口の構成要素としては元から住んでいた「原住民」、日清戦争の講和条約である下関条約(1895年)よりも前に大陸から 移住した「内省人」、第二次世界大戦後の国共内戦(1946~1950年)の結果として大陸を追われた国民党と共に来た「外省人」の3つに分かれていま す。
それぞれの比率は、原住民 2%、内省人 83%、外省人 15%とされています。
実際としては、原住民と内省人の混血は進んでいますし、外省人と内省人は外国人から見ると見分けがつきません。また、内省人も広州や福建あたりから流入した人々が中心とのことで、上海を中心とした国民党の勢力とは人種的な繋がりは薄いそうです。
かような複雑な民族構成ではありますが武力と経済を抑えた外省人の勢力は強く、人口比率と統治権力の分配比率が歪であることは否めませんでした。
国民党は中華民国の政権党であることから、台湾の国号は「中華民国」となっており、2000年より前の国民党政権時代には大陸側への統治権を主張する様々な制度が残っていたと聞きます。国際政治的にも軍事的にも大陸に進行して政権を奪還する力など持たないにも関わらず中華民国という国号を保ったままの政体を維持できていた裏については、白人国家の「統治権」に関する考え方を理解すると見えてくるものがあると思います。
1999年の選挙により民進党が政権を取ったことで非現実的な制度の多くを改められ、台湾国として進むかに思われましたが、2008年の選挙で国民党に政権を奪還されました。この選挙では国民党そのものよりも大陸側(中華人民共和国)からの干渉が強く、特に大陸との経済依存度が高い勢力の後押しがあったと言われています。
国民党の政権奪還後、経済の大陸依存度がより強くなる一方、台湾国内の経済は長い不況と下がらない失業率に苦しむこととなります。
そのような中で行われた「サービス貿易協定」の締結は大陸企業の台湾進出を後押しするものであったため、台湾の学生を中心に強い反発が生まれ、前述の「ひまわり学生運動」による議会の占拠が行われました。
議会の占拠の際には、国民党支持者によるものと思われる内部撹乱工作や反社会的勢力による直接的な攻撃が行われましたが、学生側がインターネットを介して世界中に状況を実況したこともあり、当局の武力介入による白色テロは発生しませんでした。(国民党は1947年に「二・二八事件」という白色テロを起こしています)
立法院長が学生側の要求に応じたことで議場の占拠は終息しましたが、その後も反国民党の動きは収まらず、2014年の台北市長選挙では無所属の議員(民進党が支援)が当選、これらの流れから今回の選挙では政権交代が必然と見られていました。
今回の選挙結果に日本国民の一人としては、国境を接する隣国であり経済を支える海路(シーレーン)の要所を友好的な政体に統治されることは望ましいことだと考えています。ただし、友好的な関係は一方通行のものではなく、相互関係によるものであることを忘れてはならないと思います。
友好的な関係を促進するための台湾側は体制は定まりましたので、次は我が国がどの様に対応するのかが問われると考えています。東日本大震災の経緯から民間の交流は盛んに行われており、既に国家間の関係を深める素地は出来ていると思いますので、政府の決断次第ということになるでしょう。
民進党の主席で次期総統となる蔡英文氏は昨年10月に来日しており、公式日程では伏せられていますが安倍総理と会談の機会を持ったのではないかと言われています。今後、両国関係がどの様に改善し発展してゆくか、注視したいと思います。