『チャイナ(中国)4.0 暴走する中華帝国』は、2015年10月に訪日したエドワード・ルトワック氏に対して、訳者の奥山真司氏が6回に渡るインタビューを行い、その内容をまとめた書籍です。

 

本書は、2000年以降のチャイナの世界戦略の分析(チャイナ1.0~3.0)から始まり、ロシアとチャイナの外交文化の比較、国際政治における作用と反作用、そして戦略家であるルトワック氏が提言する今後のあるべき戦略(チャイナ4.0)の提言、そして本書の締めは不安定な帝国チャイナと隣接する我が国に対する戦略の提言となっています。

主要な内容であるチャイナ1.0~4.0については別の書評に譲るとして、第三章「なぜ国家は戦略を謝るのか?」にて語られる戦略における作用と反作用の内容が特に興味深かったため、この点に絞って書きます。

 

第三章では、大東亜戦争(1941年)の大日本帝国、イラク戦争(2003年)の米国を参考に、「大国は小国に勝てない」という理論の説明となります。

その骨子は、大国が小国に紛争・戦争を仕掛ける場合、大国 対 小国の構図にはならず、大国 対 小国+支援する大国という構図になるというものです。これにより、純粋な国力では勝ち目のない小国が大国を撃退するという歴史上幾度と無く現れた事象の説明ができます。

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日露戦争

大日本帝国の例を上げれば、日露戦争は大国ロシアと小国日本の戦争ですが、日本の背後には英国(日英同盟+航路妨害)や米国(講和支援)があったことで日本の勝利となりました。何故に英国や米国が日本を支援したのか?という問いには、英米としてはロシアが勝利して不凍港を獲得することを望まないという事情があります。

逆に大東亜戦争における大日本帝国は、我が国の視点からは通州事件やを第二次上海事変を経て支那事変へと至りますが、外部からは大日本帝国(大国)と中華民国(小国)の構図となり、大日本帝国の拡大を望まない大国(米国)が援蒋ルートなどの支援を行うという構図になりました。

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第二次上海事変

この様に大国が小国を攻める行為は、他の大国や周辺の国家群に対して危機意識を喚起し、結果として大国 対 小国という簡単な構図にはならなくなります。

 

この前提で2009年以降のチャイナの動き(チャイナ2.0)を見ていくと、拡張主義を推し進めて周辺国全てに脅威を与えた結果、ASEAN諸国の団結、日米同盟の深化、日本とインドの連携、そして日米とASEAN諸国の連携という状況を現出させました。

この様な状況から、2014年末から戦略の変更(チャイナ3.0)が行われ、抵抗力の弱いポイント(フィリピン)にのみ絞った攻撃という方法への切り替えが行われました。しかし、大国 対 小国という構図がより鮮明になるほど周辺国からの力の集中(米国は基地の復活、我が国からは装備の提供)が行われ、現在の状況に至ります。

P-3C Orion

斯様に、大国が小国に圧力を掛けることで他の国家の介入を招き、戦略的条件の変化が発生するということが示されています。

ただし、これには当てはまらない事例もあります。

例えば、南オセチア紛争(ロシア対グルジア)では他国(米国とNATO)の介入を期待したグルジアに対して、介入される前にロシアが決着を付けました。また、ウクライナ紛争(ウクライナ軍対独立派+ロシア非正規軍)では正規軍を動かさずに紛争介入を行うことで、他の国が本格的に介入することが難い状況を作り出し、ロシアが肩入れした紛争当事者側が優位の内に停戦合意に至りました。

 

本書にて語られる内容は一般的なメディアで語られる論調とは一線を画すものであり、大変興味深いものです。

現在、我が国を囲む状況への理解を深めるためには、一読の価値がある書籍であると思います。